十一月も半ばを過ぎた頃、窓の外はもう夕暮れの気配が濃くなる時間だった。外はまだ明るさの残る灰色の空なのに、部屋の中はすでに静けさに包まれていて、ストーブではなく暖炉の火が、ゆっくりと揺れていた。その揺らぎがラグの表面に影を作り、わずかに動いているように見える。私たちはそのラグの上に座り込んで、何をするでもなく、ただそこにいた。
隣にいる人は、膝を抱えたまま、少しだけ傾いた姿勢で暖炉を見つめている。その横顔は、何かを考えているようで、でも何も考えていないようにも見えた。そんな曖昧さが、この時間にはちょうどよかった。彼女が手にしているのは、小さなマグカップ。中には、近所のカフェで買ってきたという、ラベンダーとカモミールのブレンドティーが入っている。「ブルーミスト」という名前だったか、と思い出そうとしたけれど、正確には思い出せなかった。
ラグの肌触りは、思っていたよりもずっと柔らかかった。買う前に何度も迷った。色も、素材も、サイズも。でも実際に敷いてみたら、迷っていた時間が嘘みたいに、すんなりと部屋に馴染んでいた。ベージュに近いグレー。光の加減で表情が変わる。暖炉の明かりが当たると、まるでクリーム色に見えることもある。
子どもの頃、祖父母の家に行くと、必ず居間に敷かれた大きなラグの上で遊んでいた記憶がある。あれは確か、赤と茶色の幾何学模様だった。その上でトランプをしたり、漫画を読んだり、ときには昼寝をしたりした。あのラグは今どこにあるのだろう。もう処分されてしまったかもしれない。それでも、あの感触だけは、今でも思い出せる気がする。
暖炉の薪がパチンと音を立てた。それに反応して、彼女が少しだけ身じろぎする。そのとき、マグカップを持つ手がわずかに傾いて、ほんの少しだけ、ティーが縁から溢れそうになった。慌ててカップを戻す仕草が、妙に可笑しかった。彼女も気づいたようで、小さく笑っていた。「危なかった」と小さく呟く声が、暖炉の音に混じって消えていく。
この時間には、急ぐ理由がない。何かをしなければいけないわけでもない。ただ、ラグの上に座って、暖炉の前にいて、隣に誰かがいる。それだけで、何かが満たされていく感覚があった。団欒という言葉が、ふと頭に浮かぶ。でもそれは、賑やかな食卓や笑い声に満ちた空間だけを指すものではないのかもしれない。こうして、静かに並んでいるだけの時間も、確かに団欒なのだと思う。
外の空気はもう冷たくなっているだろう。でも、この部屋の中は暖かかった。暖炉の火が作り出す温度は、エアコンのそれとは違う。じんわりと、体の芯まで届くような暖かさ。ラグに触れている手のひらも、ほんのり温かい。それは床暖房のおかげなのか、それとも暖炉の熱が伝わってきたのか、判然としない。
彼女がカップを置いて、少しだけ体を伸ばした。そのまま、ラグの上に寝転がる。天井を見上げているのか、目を閉じているのか、こちらからはわからない。私も同じように横になってみる。視界が変わると、部屋の印象もまた変わった。暖炉の炎が、天井に映っている。ゆらゆらと、まるで生き物みたいに動いている。
時間の感覚が曖昧になっていく。五分なのか、十五分なのか、もっと長いのか。スマートフォンは別の部屋に置いてきた。時計も見ていない。ただ、火が燃えている音と、ときどき聞こえる外の車の音だけが、時間が流れていることを教えてくれる。
「このラグ、買ってよかったね」と、彼女が言った。その声は、ぼんやりとしていて、でもはっきりと聞こえた。私は「そうだね」とだけ答えた。それ以上の言葉は、いらなかった。
暖炉の火が少し弱くなってきた気がして、薪を一本足す。また炎が大きくなって、部屋全体が少しだけ明るくなる。ラグの毛足が、光を受けて柔らかく輝いている。その光景を見ていると、これが贅沢というものなのかもしれないと思った。高価なものを買うことでも、遠くへ旅することでもなく、ただこうして、ラグの上で、暖炉の前で、静かに誰かと時間を過ごすこと。それが、ささやかで、でも確かな贅沢なのだと。
やがて、外は完全に暗くなっていった。でも部屋の中には、まだ暖かな光があった。
組織名：スタジオくまかけ / 役職名：AI投稿チーム担当者 / 執筆者名：アイブログ
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