リビングの窓から差し込む柔らかな午後の光が、ペルシャ風の模様が織り込まれたラグの上で優しく揺れている。結婚して五十年以上になる老夫婦は、今日もその上に腰を下ろし、湯気の立つお茶を二人で囲んでいた。夫が淹れた煎茶の香りが部屋いっぱいに広がり、妻は静かに微笑みながら湯呑みを両手で包み込む。
このラグは、二人が新婚旅行で訪れた中東の市場で見つけたものだ。当時は色鮮やかで、踏むたびに新しい感触があった。今では少し色褪せ、端の糸がほつれ始めているけれど、それがかえって二人の歴史を物語っているようで愛おしい。妻はときどきラグの模様をなぞりながら、あの旅の思い出を夫に語る。夫はいつも同じ話を何度も聞いているはずなのに、まるで初めて聞くかのように相槌を打ち、時折笑いを交えて応じる。
お茶を飲みながら過ごすこの時間は、二人にとって何よりも大切な日課となっていた。朝の家事を終え、昼食の片付けも済ませた午後三時頃、自然と二人はこのラグの上に集まる。特別な用事があるわけでもなく、急いで話さなければならないこともない。ただ、お互いの存在を確かめ合うように、穏やかな時間を共有するのだ。
夫は最近、庭で育てているバラの話をよくする。今年は特に赤いバラがよく咲いたこと、肥料の配合を少し変えてみたこと。妻はそれを聞きながら、自分が読んでいる小説の話を挟む。主人公がどんな選択をしたか、その心情がどう描かれていたか。会話は途切れることなく、しかし急ぐこともなく、ゆったりとした川の流れのように続いていく。
ラグの上には、二人のお気に入りのクッションが置かれている。妻が手作りした刺繍入りのものと、娘が母の日に贈ってくれた柔らかな素材のもの。それらに寄りかかりながら、二人はお茶をすすり、時には沈黙を挟みながらも、心地よい語らいを続ける。沈黙さえも二人にとっては会話の一部であり、言葉にしなくても伝わる何かがそこにはあった。
窓の外では風に揺れる木々の葉音が聞こえ、遠くで子どもたちの遊ぶ声がかすかに響く。季節はゆっくりと移り変わり、ラグの上に落ちる光の角度も少しずつ変化していく。春には桜の花びらが風に舞い、夏には蝉の声が賑やかに響き、秋には金木犀の香りが漂い、冬には雪の白さが窓辺を彩る。けれど、このラグの上で過ごす二人の時間だけは、いつも変わらず穏やかで温かい。
妻は二杯目のお茶を注ぎながら、昔の写真アルバムを取り出すこともある。子どもたちが小さかった頃の写真、家族旅行の思い出、孫が生まれた時の喜びに満ちた表情。一枚一枚めくるたびに、二人の間には懐かしさと感謝の気持ちが溢れる。夫は老眼鏡をかけ直しながら、写真の中の自分たちを見つめ、「あの頃は若かったな」と笑う。妻も「でも今が一番幸せよ」と応える。その言葉に嘘はなかった。
このラグの上では、喧嘩もした。意見がぶつかり合い、お互いに譲れないこともあった。けれど、最終的にはいつもこの場所で和解し、また笑顔を取り戻してきた。ラグは二人の涙も笑いも、すべてを受け止めてきた無言の証人なのだ。だからこそ、二人はこのラグを大切にし、決して手放そうとは思わない。
お茶の時間が終わる頃、夕暮れの光がラグを黄金色に染め始める。夫は立ち上がり、妻に手を差し伸べる。妻はその手を取り、ゆっくりと立ち上がる。二人は使った湯呑みを一緒に台所へ運び、また明日もこの場所で会おうと、言葉にせずとも約束する。
ラグの上で過ごす午後の時間は、二人にとってかけがえのない宝物だ。華やかな出来事があるわけではないけれど、お互いの声を聞き、お茶を飲み、語らいを交わすこと。それが何よりも豊かで、心を満たしてくれる。長い人生を共に歩んできた二人だからこそ、こんなにも穏やかで深い時間を共有できるのだろう。そして、このラグがある限り、二人の物語はこれからもずっと続いていく。
組織名:株式会社スタジオくまかけ / 役職名:AI投稿チーム担当者 / 執筆者名:上辻 敏之


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