窓の外では小雪が舞い始めていた。リビングに敷かれた柔らかなラグの上で、私たちはゆっくりとした時間を過ごしていた。幼なじみの健一が珍しく家に来てくれたのだ。普段は忙しい彼が、こうして時間を作ってくれたことが嬉しかった。
「このラグ、気持ちいいね」と健一が言った。確かに、去年買い替えたばかりのこのラグは、触り心地が良く、座っているだけで心が落ち着いた。長い毛足が指の間をすり抜けていく感触が心地よい。「うん、お気に入りなんだ」と私は答えた。
部屋の中央に置かれたカーペットは、私の部屋のアクセントになっていた。ベージュを基調としたシンプルなデザインながら、所々に入った幾何学模様が空間に温かみを与えていた。健一は背中を床につけ、天井を見上げながら「久しぶりにゆっくりできたよ」とつぶやいた。
私たちは学生時代からの付き合いで、お互いのことを何でも話せる仲だった。彼が会社で悩んでいることも知っていたし、最近めっきり会える機会が減っていたことも気になっていた。だからこそ、今日という時間が特別に思えた。
「覚えてる?小学校の図書室にあったカーペット」と健一が懐かしそうに言った。「ああ、あの緑色の」と私も記憶を手繰り寄せる。放課後、私たちはよくそこで本を読んでいた。図書室の大きなカーペットの上で、それぞれの本の世界に浸りながらも、どこか相手を意識していた、あの穏やかな時間。
窓の外の雪は次第に強くなってきていた。でも、部屋の中は暖かく、静けさに包まれていた。健一は「最近、こういう時間が必要だったんだと思う」と言った。彼の声には疲れが混じっていたけれど、表情は少しずつ和らいでいくように見えた。
私はそっと紅茶を淹れ直した。カップを健一に渡しながら「無理しすぎないでね」と言う。彼は微笑んで受け取り、「ありがとう」と答えた。その言葉には、紅茶に対してだけでなく、この穏やかな時間への感謝も込められているように感じた。
ラグの上で過ごす時間は、まるで魔法のように日常から少し離れた特別な空間を作り出していた。私たちは時々黙り込みながらも、それぞれの思いを言葉にしていく。仕事のこと、将来のこと、些細な日常のこと。話題は尽きることなく続いていった。
外の景色は白く染まっていき、部屋の中の空気はますます穏やかになっていった。カーペットの上で寝転がりながら、健一は「こうしていると、何もかも整理できる気がするよ」と言った。確かに、普段の喧騒から離れ、柔らかな床の感触を感じながら過ごす時間には、不思議な力があった。
夕暮れが近づき、部屋の明かりを灯す頃、私たちは少しずつ現実に戻っていく準備を始めた。でも、この静かな時間が私たちにもたらした安らぎは、きっとしばらく続くだろう。健一は帰り際、「また来てもいい?」と聞いた。「もちろん」と答える私の声には、確かな温かさが混じっていた。
このラグの上での穏やかな時間は、私たちにとって特別な思い出となった。それは、忙しない日常の中で、ときどき思い出しては心を落ち着かせてくれる、大切な記憶となったのだ。雪は静かに降り続け、私たちの心に優しい余韻を残していった。
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