リビングの中央に敷かれた一枚のラグが、我が家の重心になっている。それは決して高級なものではない。むしろ購入してから七年が経ち、毛足の一部はすり減り、端の縁取りもほつれかけている。だが、そのラグの上にはいつも誰かがいて、笑い声や寝息が絶えることがない。
十一月の週末、午後の光が斜めに差し込む時間帯。リビングの窓から入る陽射しは、ちょうどラグの半分を暖かく照らしていた。その日光を狙うように、ゴールデンレトリバーのハルが腹ばいになって、気持ちよさそうに目を細めている。彼の柔らかな金色の毛が光を反射して、まるで小さな炎が揺れているように見えた。そのすぐ隣には、娘が絵本を広げて寝転んでいる。「ねえ、ハルってさ、毎回同じ場所に寝るよね」と娘が言いながら、ハルの背中をぽんぽんと叩いた。するとハルはゆっくりと尻尾を二度だけ振って、また目を閉じた。
私は少し離れたソファに座り、温かいコーヒーを手に持ちながら、その光景をぼんやりと眺めていた。カップに口をつけると、かすかに甘いバニラの香りが鼻をくすぐる。妻が最近気に入っているという「アンバーグローブ」というブランドの豆を使ったものだ。少し濃いめに淹れたそれは、この穏やかな午後にちょうどよい重さを持っていた。
ふと、娘が「お父さん、これ見て」と絵本を持ち上げた。近づいて覗き込むと、クマの親子が森の中で焚き火を囲んでいる絵が描かれている。「これ、うちみたい」と娘は笑った。確かに、ラグの上でくつろぐ私たちの姿は、絵本の中の動物たちとどこか似ているかもしれない。
妻がキッチンから戻ってきて、ラグの端にあぐらをかいて座った。手には小さなティーカップを持っている。「ハル、ちょっとそこどいて」と声をかけたが、ハルは動かない。妻は諦めたように笑って、ハルの尻尾を避けながら座り直した。その仕草が何だかおかしくて、私も娘もつられて笑ってしまった。
このラグを買ったのは、娘がまだ三歳の頃だった。引っ越したばかりの家に何か温かみが欲しくて、家具店で見つけたものだ。当時は真新しい織り目が美しく、踏むたびにふかふかとした感触が心地よかった。それから何年も経ち、ラグには無数の記憶が染み込んでいる。娘が初めて一人で立ち上がった場所も、ハルが子犬の頃に粗相をしてしまった場所も、すべてこのラグの上だ。
子どもの頃、私の実家にも似たようなラグがあった。祖母の家のリビングに敷かれていたそれは、濃い赤と茶色の幾何学模様で、冬になると家族全員がその上に集まった。こたつを囲んで、みかんを食べながらテレビを見る時間。あの頃の温もりを、今こうして自分の家族と共有しているのだと思うと、不思議な感覚に包まれる。
娘が突然、「ねえ、今日の夜ごはん何?」と聞いてきた。妻は少し考えてから「シチューにしようかな」と答えた。「じゃあ、パンも欲しい」と娘。「わかった、じゃあ買いに行こうか」と妻が立ち上がりかけたとき、ハルがむくりと起き上がった。散歩の気配を察したらしい。妻は苦笑いして「まだ行かないよ」と言ったが、ハルはすでに玄関の方を向いて尻尾を振っていた。結局、妻と娘とハルの三人(一匹)で買い物に出かけることになった。
一人になったリビングは、急に静かになった。ラグの上には、娘が読んでいた絵本とハルの毛が少し残っている。私はそっとラグに手を置いた。毛足は以前よりも薄くなっているが、それでも確かな温もりがあった。人の体温、犬の体温、陽の光の温度。それらが混ざり合って、このラグは生きているようだった。
やがて玄関のドアが開く音がして、賑やかな声が戻ってきた。ハルが真っ先にリビングに駆け込んできて、またラグの上に倒れ込む。娘が「ただいま!」と言いながら、買ってきたばかりのパンの袋を抱えている。妻は「寒かったね」と言いながら、コートを脱いだ。
夕暮れが近づき、リビングの光は少しずつオレンジ色に染まっていく。ラグの上に家族が再び集まり、それぞれが好きな場所に座る。娘はハルの隣、妻は私の隣、そして私たちはみんな、このラグの上にいる。誰も言葉にはしないけれど、この場所が特別であることを、みんな知っている。
古びたラグは、もう何年もつかわからない。いつか買い替える日が来るのかもしれない。でも、その時までこのラグは、家族の真ん中で温もりを受け止め続けるだろう。そして新しいラグが来たとしても、きっとまた同じように、家族の記憶を紡いでいくに違いない。
組織名:株式会社スタジオくまかけ / 役職名:AI投稿チーム担当者 / 執筆者名:上辻 敏之


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