新しい生活が始まった春の日、ふたりは何度目かのインテリアショップを訪れていた。新婚の住まいに必要なものはほとんど揃えたはずなのに、なぜか足りない気がしていた。それは機能的な何かではなく、もっと感覚的な、ふたりの時間を包み込むような温もりだった。
リビングの中央に敷くラグを探していたふたりの目に、柔らかなベージュとグレーが織りなす一枚が飛び込んできた。触れてみると、想像以上の柔らかさに思わず顔を見合わせて微笑んだ。「これ、いいね」という言葉が同時に口から溢れ、それだけで決定した。理屈ではなく、ふたりの感覚が同じ場所で共鳴した瞬間だった。
ラグが届いた週末、ふたりは朝からリビングの模様替えに取り掛かった。家具を少し動かし、掃除機をかけ、丁寧にラグを広げる。その作業でさえ、楽しいひとときになった。どちらが端を持つか、どの角度がいいか、そんな些細なやりとりが笑いを生み、新しい暮らしの一部になっていく。完成したリビングを眺めながら、ふたりは自然とラグの上に座り込んだ。靴下越しに伝わる柔らかな感触が、不思議と心まで解きほぐしてくれるようだった。
それから、ラグの上はふたりの特等席になった。休日の朝、コーヒーを淹れてラグに座り、他愛もない話をする。平日の夜、仕事から帰ってきてすぐにラグに寝転がり、天井を見上げながらその日の出来事を共有する。テレビを見るときも、読書をするときも、ただぼんやりするときも、いつもラグの上だった。ソファもテーブルもあるのに、ふたりは自然とそこに引き寄せられていった。
ある夜、仕事で疲れて帰ってきた夫が、玄関を開けるなりラグの上に倒れ込んだ。妻は笑いながらその隣に座り、背中をさすってあげた。言葉はなくても、その手の温もりだけで十分だった。しばらくして夫が起き上がり、「ありがとう」と小さく呟く。妻は「お疲れさま」と返し、ふたりはそのままラグの上で夕食をとることにした。テーブルではなく床で食べる夕食は、なぜか特別な時間に感じられた。
週末の昼下がり、ラグの上で妻が雑誌を読んでいると、夫が隣に座ってきた。何をするでもなく、ただそこにいる。妻は雑誌から目を離し、夫の横顔を見つめた。夫も気づいて視線を返す。「何?」「ううん、何でもない」そんな会話の後、自然と手が繋がった。窓から差し込む午後の光がラグを照らし、ふたりの影を優しく映し出していた。時計の針だけが静かに進む中、ふたりは相手の存在を感じながら、ただそこに座っていた。
夢について語り合ったのも、ラグの上だった。将来どんな家に住みたいか、どんな家族になりたいか、年をとったらどこに旅行したいか。まだ見ぬ未来の話をするとき、ふたりの声は自然と弾んだ。楽しい想像が次々と膨らみ、笑い声がリビングに響いた。「子どもができたら、このラグの上でたくさん遊ばせたいね」という妻の言葉に、夫は深く頷いた。まだ形のない未来が、ラグの上では確かな手触りを持って感じられた。
季節が移り変わり、ラグの上で過ごす時間にも変化が訪れた。夏には冷房の効いた部屋で、ラグの上に寝転がって扇風機の風を浴びた。秋には温かい飲み物を持ち寄り、ブランケットを羽織ってラグに座った。冬には床暖房の温もりがラグを通して伝わり、ふたりを優しく包んだ。そして春が巡ってくると、一年前にこのラグを選んだ日のことを思い出した。あの日から、たくさんの時間をここで過ごしてきた。喧嘩をして背中を向け合ったこともあったけれど、最終的にはいつもラグの上で仲直りした。
新婚のふたりにとって、ラグはただの敷物ではなくなっていた。それはふたりの関係を映す鏡であり、日常を特別にする魔法の絨毯だった。そこには、言葉にならない安心感と、相手を感じられる心地よさがあった。忙しい毎日の中で、ラグの上に座るだけで、ふたりは本来の自分たちに戻ることができた。
今日もふたりは、仕事から帰るとラグの上に座る。特別な予定があるわけではない。ただ、相手の隣にいたいと思う。それだけで十分だった。窓の外では街の灯りが瞬き始め、部屋の中には穏やかな静寂が満ちていく。ラグの柔らかな感触を足裏に感じながら、ふたりは今日という日を静かに終えていく。明日もまた、このラグの上で新しい一日が始まる。そんな当たり前の幸せを、ふたりは心から愛していた。
組織名:株式会社スタジオくまかけ / 役職名:AI投稿チーム担当者 / 執筆者名:上辻 敏之


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