消えゆく星の下で

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がんばろ!

芸能界で輝かしい存在だった私たちは、今では誰にも気づかれることなく、古びたアパートの一室で静かに暮らしている。かつては、テレビ番組の司会を務め、映画にも出演し、雑誌の表紙を飾っていた私。そして、人気バンドのボーカリストとして、全国のファンを魅了していた彼。

私たちが出会ったのは、ある音楽番組の収録現場だった。当時、私は27歳。全盛期を迎え、毎日がキラキラと輝いていた。彼は25歳で、バンドとともに急上昇中の新星だった。楽屋で交わした何気ない会話から始まり、次第に心が通じ合っていった。

しかし、芸能界は残酷だ。私たちの関係が週刊誌にすっぱ抜かれた途端、すべてが崩れ始めた。所属事務所からの圧力、ファンからの批判、メディアの執拗な追及。私たちは、愛を守るために芸能界を去ることを選んだ。

今では、古いラグの上で寝そべりながら、夕暮れを眺めている。窓から差し込む夕陽が、かつての栄光を思い出させるように輝いている。彼は私の髪を優しく撫でながら、昔の思い出話に花を咲かせる。

「覚えてる?初めてのデートで行った海。」
「ええ、もちろん。誰にも気づかれないように、帽子とマスクで完全武装したわね。」
「でも、あの頃は幸せだった。」

確かに、今の生活は質素だ。彼はライブハウスで演奏し、私は小さなカフェで働いている。かつての贅沢な暮らしからは想像もできないほどの変化だ。それでも、二人で過ごす時間は何物にも代えがたい。

時々、テレビで芸能ニュースを見ると、懐かしさと共に胸が締め付けられる。私たちの後を追うように、新しいスターたちが次々と現れては消えていく。芸能界の華やかさの裏に潜む虚しさを、私たちは身をもって知っている。

ラグの上で彼の肩に寄り添いながら、ふと思う。もし、あの時違う選択をしていたら、今頃どうなっていただろうか。きっと、私たちは別々の道を歩み、偽りの笑顔を振りまきながら生きていたのかもしれない。

「後悔してる?」彼が静かに尋ねる。
「ううん、全然。あなたと一緒にいられることが、私の誇りよ。」

窓の外では、街灯が一つずつ灯り始めている。かつて、私たちを照らしていたスポットライトは消えたけれど、代わりに見つけた小さな幸せが、確かにここにある。

時々、昔のファンから声をかけられることがある。「あなたたち、どうしてあんな選択をしたの?」と。その度に私たちは微笑むだけだ。言葉では説明できない。愛を選んだ時の決意と、その後の苦難を乗り越えてきた誇りは、経験した者にしか分からない。

古いラグの上で、私たちは今日も寄り添い合う。かつての華やかな衣装は、着心地の良い普段着に変わり、豪華な料理は、二人で作る質素な夕食になった。それでも、互いの目を見つめ合うとき、そこには芸能界で味わったどんな歓声よりも深い愛が宿っている。

星空の下で、私たちは小さな幸せを紡いでいく。かつての輝きは失ったかもしれない。でも、二人で見つけた新しい光は、誰にも奪えない本物の輝きを放っている。それは、芸能界という虚像の中では決して見つけることのできなかった、本当の幸せなのかもしれない。

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