窓の外では小雪が舞い始めていた。リビングの床暖房の上に敷かれた柔らかなラグの上で、私たちは寄り添うように座っていた。結婚して3ヶ月が経った今でも、休日の午後をこうして過ごすことが何よりの贅沢だと感じる。
「ねぇ、このラグ、買って正解だったね」と夫が言う。結婚前から一緒に家具を選んでいた時、このラグを見つけたときの喜びを思い出す。ふたりで触り心地を確かめ、色合いを吟味し、まだ見ぬ未来の生活を想像しながら選んだものだった。
温かい紅茶を手に持ちながら、私は夫の肩に寄りかかる。「うん、本当にそうだね」と答えると、夫は優しく微笑んだ。休日の午後のこんなひとときが、私たちの大切な日課になっていた。
新居に引っ越してきた日、真っ先に広げたのがこのラグだった。箱から取り出した瞬間の新品の香りと、柔らかな肌触りは今でも鮮明に覚えている。その日は疲れて座り込んだまま、ふたりでラグの上で眠ってしまったほどだ。
「将来は、このラグの上で子供と遊ぶんだろうね」と夫が言う。その言葉に、私は心が温かくなる。まだ見ぬ未来の光景が、まるで映画のように頭の中に広がっていく。小さな足音が響き、笑い声が部屋中に満ちる様子を想像する。
窓の外の雪は、いつの間にか本格的に降り始めていた。白い結晶が静かに舞い落ちる様子を眺めながら、私たちは黙ったまま、お互いの存在を感じている。言葉を交わさなくても、相手の呼吸や体温を感じているだけで十分だった。
夫が立ち上がり、キッチンへ向かう。「何か温かいものを作ろうか」という言葉に、私も後を追う。料理をするのも、いつもふたりで。包丁を握る夫の横で野菜を洗い、鍋に具材を入れていく。些細な作業でも、ふたりでやることで特別な時間になる。
夕食の支度をしながら、私たちは自然と会話を交わす。今日あった出来事や、明日の予定、将来の夢について。話題は尽きることがない。時には真面目な話も、時には他愛もない冗談も。すべてが大切な思い出になっていく。
出来上がった料理を、またラグの上で食べることにした。普段はダイニングテーブルで食事をするけれど、今日は特別。雪の日の晩餐会という名目で、ちょっとした贅沢を楽しむ。温かい鍋を囲みながら、外の雪景色を眺める。
「こうしていられる時間が本当に幸せだね」と夫が言う。私もうなずく。結婚前は、こんなにも穏やかな時間が続くとは想像もしていなかった。でも今は、これが当たり前になっている。そして、この当たり前が何より愛おしい。
食事の後も、私たちはラグの上でくつろぐ。本を読んだり、映画を観たり、時にはただぼんやりと過ごしたり。どんな過ごし方でも、ふたりで共有できる時間があることが何より幸せだった。
夫が本棚から写真アルバムを取り出す。結婚式の写真や新婚旅行の思い出、そして新居に引っ越してきた時の写真。まだ数ヶ月前の出来事なのに、どの写真も懐かしく感じる。アルバムをめくりながら、その時の気持ちを思い出す。
「このラグを買いに行った日のこと、覚えてる?」と私が尋ねる。「もちろん」と夫は即答する。あの日、いくつものお店を回って、やっと理想のものに出会えた喜びを共有する。選んだ時の確信と、今の満足感が重なり合う。
夜も更けてきて、外の雪はすっかり積もっていた。街灯に照らされた雪景色が、まるでクリスマスカードのような光景を作り出している。ラグの上で横になりながら、私たちはその風景に見入る。
「明日も雪かな」と夫がつぶやく。「きっとそうね」と答えながら、明日もこうして過ごせることを密かに楽しみにする。毎日が特別で、でも特別すぎない。そんな日々を重ねていけることが、私たちの幸せだった。
夫が私の髪を優しく撫でる。その温もりに、心が溶けていくような感覚を覚える。結婚してからの日々は、こんな小さな幸せの連続だった。そして、これからもきっとそうだろう。
眠くなってきた私の目を見て、夫が毛布を取りに立つ。戻ってきた夫は、私たちをふわふわの毛布で包み込む。ラグの柔らかさと毛布の温もりに包まれながら、私たちは静かに目を閉じる。
明日も、明後日も、そしてその先も。このラグの上で過ごす時間が、私たちの生活の中心にあることを願いながら。そんな思いを胸に、私たちは穏やかな眠りへと落ちていく。新婚の日々は、こうして優しい夢とともに続いていく。
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