窓から差し込む柔らかな午後の光が、リビングの床に敷かれたラグの上で優しく揺れている。結婚して五十年以上になる老夫婦は、今日もいつものようにお茶の時間を楽しんでいた。夫が淹れた煎茶の湯気が立ち上り、部屋中に心地よい香りを広げていく。
妻は夫が選んだラグの上に座布団を置き、ゆっくりと腰を下ろす。このラグは二人が還暦を迎えた記念に購入したもので、落ち着いた茶色を基調とした幾何学模様が施されている。踏み心地が良く、冬は暖かく夏はさらりとした感触が心地よい。何よりこのラグの上で過ごす時間が、二人にとってかけがえのない宝物になっていた。
「今日のお茶はどう?」夫が穏やかな声で尋ねる。妻は湯呑みを両手で包み込むように持ち、一口含んでから微笑んだ。「ちょうどいい温度ね。あなたのお茶はいつも丁寧で好きよ」そんな何気ない会話が、二人の日常を彩っている。
若い頃は仕事に追われ、子育てに奔走し、ゆっくりとお茶を飲む時間すらなかった。しかし子どもたちが独立し、定年を迎えてからは、時間の流れ方が変わった。急ぐ必要のない穏やかな時間が、二人の前にたっぷりと広がっている。
ラグの上には小さな座卓が置かれ、その上には茶器と季節の和菓子が並んでいる。今日は近所の和菓子屋で買った桜餅だ。春の訪れを感じさせる淡いピンク色が、目にも美味しい。夫婦は和菓子を半分ずつ分け合い、お茶と一緒にゆっくりと味わう。
「そういえば、孫の運動会が来月だって」妻が話題を切り出す。夫は目を細めて頷いた。「もうそんな時期か。早いものだな」二人の語らいは途切れることなく続いていく。昔の思い出話、孫たちの成長、庭に咲いた花のこと、テレビで見たニュースのこと。特別な話題ではないけれど、相手がいるからこそ楽しめる会話だった。
このラグを選んだ日のことを、二人はよく覚えている。家具店を何軒も回り、たくさんのラグを見比べた。派手すぎず地味すぎず、二人の好みにぴったり合うものを探した。店員さんに勧められるまま座ってみたり、実際に触れてみたり。そうして選んだこのラグは、期待以上に二人の生活に馴染んでくれた。
午後の光がラグの織り目を照らし出し、繊維一本一本が輝いて見える。妻はそれを眺めながら、「このラグ、本当に良い買い物だったわね」と呟く。夫も同意するように頷き、「ああ、これからもずっとこの上でお茶を飲もう」と答えた。
お茶をもう一杯淹れ直す。二杯目のお茶は少し濃いめに。夫婦それぞれの好みを知り尽くしているから、言葉にしなくても分かり合える。妻は夫の湯呑みにお茶を注ぎ、夫は妻に和菓子を勧める。そんな小さな気遣いの積み重ねが、長い年月をかけて育んできた絆なのだろう。
窓の外では風に揺れる木々の葉音が聞こえる。時折、小鳥のさえずりも混じる。室内は静かで穏やかな空気に満たされている。ラグの上で過ごすこの時間は、二人にとって何にも代えがたい安らぎの時間だ。
「来週は娘が来るって言ってたわね」妻が思い出したように言う。「ああ、久しぶりだな。何か作ってあげようか」夫の提案に、妻は嬉しそうに笑った。二人で台所に立つ時間も、また楽しい。
お茶を飲み終えた後も、二人はしばらくラグの上に座り続けた。急いで立ち上がる必要もない。次の予定に追われることもない。ただ隣にいる相手の存在を感じながら、穏やかな時間を共有する。それだけで十分に幸せだった。
夕方が近づき、部屋の光の色が少しずつ変わっていく。ラグの色合いも、時間とともに表情を変える。朝の光、昼の光、夕方の光。それぞれの時間帯で見せる表情の違いを、二人は何度も眺めてきた。
「そろそろ夕飯の準備をしようか」妻が立ち上がる準備をする。夫も「そうだな」と応えながら、茶器を片付け始める。でも二人とも、このラグの上で過ごした時間を惜しむように、動きはゆっくりだ。
明日もまた、このラグの上でお茶を飲むだろう。そして語らい、笑い、時には昔を懐かしむ。変わらない日常の中に、かけがえのない幸せがある。老夫婦はそれを知っている。だからこそ、今日という一日を大切に過ごすのだ。
ラグの上で紡がれる二人だけの時間。それは誰にも邪魔されない、穏やかで温かな宝物のような時間なのである。
組織名：株式会社スタジオくまかけ / 役職名：AI投稿チーム担当者 / 執筆者名：上辻 敏之
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