窓から差し込む柔らかな午後の光が、リビングのラグの上で静かに揺れている。そのラグは、もう何年この家にあるのだろうか。色褪せた模様が、かえって温かみを増しているようにも見える。その上に置かれた低いテーブルには、湯気を立てる二つの湯呑みと、小さな茶菓子が並んでいる。
「今日のお茶は、あの店の新しいほうじ茶よ」
妻が穏やかな声で言いながら、夫の前に湯呑みを置く。夫は新聞から目を上げて、にっこりと微笑んだ。結婚して五十年以上が経つ二人だが、こうしてお茶を飲む時間は、今でも特別なものだ。
ラグの感触は、長年の使用で柔らかく足に馴染んでいる。二人がここに座り、語らい、時には黙って時間を共有してきた証だ。若い頃は子どもたちがこのラグの上で遊び、転がり、笑い声を上げていた。今では孫たちが訪れた時に、同じように賑やかな時間を過ごす場所となっている。
「そういえば、このラグを買ったのはいつだったかしら」
妻がふと思い出したように言う。夫は湯呑みを持ったまま、少し考える素振りを見せた。
「確か、長男が小学校に上がる前だったから、もう四十年以上前だな」
「まあ、そんなに経つのね。よく持ったものだわ」
二人の会話は、急ぐことなく、ゆっくりと流れていく。お茶を一口飲んでは、窓の外を眺め、また言葉を交わす。この穏やかなリズムこそが、老夫婦にとっての心地よい時間の過ごし方だった。
ラグの上には、二人の歴史が染み込んでいる。喜びの日も、悲しみの日も、このラグの上で二人は寄り添ってきた。言葉にしなくても分かり合える関係性は、長い年月をかけて育まれたものだ。
「このほうじ茶、香ばしくていいわね」
「ああ、本当だ。君の淹れるお茶は、いつも美味しいよ」
夫の何気ない言葉に、妻は少し照れたように笑った。こんな小さな語らいが、二人の日常を豊かにしている。特別なことは何もない。ただ、そこにいて、お茶を飲み、言葉を交わす。それだけのことが、何よりも尊い時間なのだ。
ラグの織り目を見つめながら、妻は思う。この一本一本の糸が絡み合って一枚の布になっているように、二人の人生も互いに絡み合いながら、一つの物語を紡いできたのだと。時には糸がほつれそうになることもあった。でも、そのたびに手を取り合い、修復してきた。
「あなた、来週は孫が遊びに来るのよ」
「そうか、楽しみだな。またこのラグの上で、一緒に遊べるな」
夫の目が優しく細められる。孫たちがこのラグの上で遊ぶ姿を見るのは、二人にとって何よりの喜びだ。自分たちが大切にしてきた場所で、次の世代が笑顔を見せてくれる。それは、人生の循環を感じさせてくれる瞬間でもある。
お茶を飲み終えると、妻は新しいお茶を淹れに立ち上がった。その背中を見送りながら、夫はラグの上に手を置いた。温かく、柔らかな感触。まるで、二人の関係性そのもののようだと思った。
キッチンから聞こえる、やかんの音。妻の足音。日常の音が、心地よくリビングに響く。夫は目を閉じて、その音に耳を傾けた。これが幸せというものなのだろう。特別なことは何もない。ただ、愛する人が近くにいて、穏やかな時間が流れている。それだけで十分だった。
妻が戻ってきて、また二つの湯呑みをラグの上のテーブルに置く。二人は再び、その前に座った。窓の外では、木々の葉が風に揺れている。季節は移ろい、年月は流れていく。でも、このラグの上で過ごす時間だけは、いつも変わらない。
「ありがとう」
夫が小さく言った。妻は少し驚いたように夫を見た。
「何が?」
「こうして、毎日一緒にお茶を飲めること」
妻は微笑んで、夫の手にそっと自分の手を重ねた。言葉はいらなかった。二人の心は、すでに通じ合っていた。
ラグの上で、老夫婦の穏やかな午後は続いていく。お茶の香りに包まれながら、時折交わされる語らい。それは、長い人生を共に歩んできた二人だけが知る、かけがえのない時間だった。そして、このラグがある限り、この時間はこれからもずっと続いていくのだろう。二人の物語は、まだ終わらない。
組織名:株式会社スタジオくまかけ / 役職名:AI投稿チーム担当者 / 執筆者名:上辻 敏之


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