最後の温もり

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がんばろ!

窓の外では雨が降り続いていた。灰色の空から降り注ぐ雨粒は、まるで私たちの心を映し出すかのように、冷たく重たかった。部屋の中には、古びたラグが敷かれている。かつては鮮やかだったであろう模様も、今では色褪せて、どこか寂しげな印象を与えていた。

その上で私たちは横たわっていた。彼の体温が、ラグを通して私の背中に伝わってくる。でも、それは昔のような温かさではなかった。どこか遠い、届かない温もりだった。

「もう、終わりにしよう」

彼の声は、静かに部屋に響いた。予想していた言葉だった。むしろ、いつか必ず聞くことになる言葉だと知っていた。それでも、実際に耳にすると、胸が締め付けられるような痛みを感じた。

私たちの関係は、始まりから歪んでいた。彼には家族がいる。私は、それを知りながら彼を愛してしまった。許されない恋だと分かっていながら、その温もりに溺れていった。毎週末、この部屋で過ごす時間が、私にとっての命綱だった。

ラグの上で彼の横顔を見つめる。かつて輝いていた目は、今では疲れと後悔に曇っている。彼も苦しんでいたのだ。二つの世界の間で引き裂かれ、どちらも失うことができず、でもどちらも完全には手に入れられない。その葛藤が、彼の表情に刻まれていた。

雨音が強くなる。まるで私たちの関係に終止符を打つように。部屋の空気は重く、息苦しかった。かつてはこの同じ空間で、たくさんの幸せな時間を過ごした。笑い合い、語り合い、愛し合った。でも今は、その思い出さえも毒になっていく。

「ごめん」

彼の謝罪は、私の心をさらに深く傷つけた。謝らないで欲しかった。それは、私たちの関係が間違いだったことを認めることになるから。でも、現実から逃げることはできない。

ラグの上で、私たちは黙って横たわり続けた。外の雨は、まるで私たちの涙のように止むことを知らない。時間が止まってしまえばいいのに、そう願った。でも、時計の針は容赦なく進んでいく。

最後の温もりを感じながら、私は目を閉じた。これが終わりだと受け入れなければならない。でも、この瞬間だけは、まだ彼の隣にいたかった。たとえそれが、より深い傷を作ることになるとしても。

やがて彼は立ち上がった。その動作は、まるで永遠のような重みを持っていた。私は動けなかった。ラグの上で、彼の残した温もりだけを感じていた。ドアが開き、閉じる音。それが、私たちの物語の最後の音になった。

部屋に残されたのは、私と古びたラグ、そして終わることのない雨音だけ。これから先、どれだけの時が流れても、このラグの上での最後の瞬間は、消えることのない傷として私の中に残り続けるだろう。

愛は時として、このように残酷なものになる。許されない恋は、必ず終わりを迎える。それでも、この痛みさえも、かつての幸せの証なのかもしれない。雨は今も降り続け、私の心の中の傷を優しく洗い流していく。でも、完全に癒えることは、きっとないのだろう。

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